「・・・そうなの」

脚。カウンターの向こう側でよく見えなかった。事故、もしかしたら・・・襲撃。他人事じゃない、いつでもあり得る現実。あたしにはどこか理不尽さを押し殺した響きに聴こえた。

「イイことも悪いことも自分で教えたクセに、怒られるのはオレでねぇ」

いつもの軽口に戻り、話を少し逸らした彼に合わせるように。

「伊沢さんの前だと柳さんも可愛く見えたけど?」

「隆二」

「?」

「名前で呼んでくれないの?」

思わず言葉に詰まった。

「・・・・・・だってさっき知ったばっかり」

何ていうか始まり方も突然だったし、いきなり志田に見つかるし。お兄に分かってもらえるかの心配が先で、今の今まで訊くタイミングを逃してた自分もどうかと思うの。

「ごめんネ、フルネームはあんまり教えないから忘れてた。法隆寺の隆に漢数字の二で隆二、憶えてて」

「隆二、さん」

なぞって確かめるように。

「『さん』てガラじゃないなぁ」

やな・・・隆二がちらりと横目を流し、艶めかしい笑みを覗かせる。

「オレから呼んでってお願いした女は、赤ずきんちゃんだけだよ」