初対面で名乗ってもないのに、この伊沢さんはあたしがどこの誰かも見通してた。柳さんがそれを赦してるなら、よっぽど信頼が置けるってこと。

・・・安心した、そういう相手がちゃんといて。お金や権力(ちから)より大事なものを知ってるなら大丈夫。見る目が間違ってなかった自分を褒めたい気分。

「子供の頃からの約束みたいですし」

そこはもう素直に。

「お兄以外で男に見えたのは柳さんだけなんです。あとは自分が笑ってられれば、きっと分からないお兄じゃありませんから」

あたしの返答に伊沢さんが目を細め、やっぱり不敵な微笑を過ぎらせる。

淳人と隆二(ガキども)兄弟喧嘩(ケンカ)に口を挟みやしませんがね。・・・困り事があれば井沢がお嬢さんの頼みを引き受けるのが、筋ってもんでしょう」

言って四角い風呂敷包みをカウンターの上に置くと、柳さんには素っ気なく。

「持ってけ。・・・貸しはツケだ」

「出世払いで返しますって」

「十分してやがるだろうが」