中に入ると、5、6人でいっぱいになりそうなL字型のカウンター席のみ。連棟式の建物で窓がないのを、造り付けの丸い雪見障子で奥行き感を演出してあって。

少し紫みのある、くすんだ青色の壁。行灯風の照明。飾り気はないけど、しっとり落ち着いた雰囲気。お品書きは見当たらず、知らないで入ったらまずは出てく勇気が要りそうな。

お客は左端に五十代くらいの男が一人、あたしを一瞥してすっと視線を外す。何となく極道でも堅気でもない匂いがした。

「連れか?」

カウンターの向こう側から目を細める店主に、口の端を淡く緩めた柳さん。

「淳人に訊かれても黙っといて下さい、横取りしてきちゃったんで」

「・・・俺を巻き込むんじゃねぇよガキ」

「言われちゃったなぁ」