「本当に好きな人には奥手になるタイプだよ君は」

「…なんかそうはっきり言われるとそんな気がしてきた」


 普通の店員と客のやりとりでは考えれないくらい容赦ない駄目出しだ。

 だけどバッサリと切り捨てるマスターの言葉になんだか胸のつかえまで切り落とされたみたいでスッキリした。


「…本当に大切な人なら今からでも行ったらどうだい?」


 静かに洗いあがったグラスを真っ白なクロスで拭きながらマスターが言う。

 覗き込んでくる視線はさっきまでの明朗さはなく真摯なものだ。

 きっと人生の先輩としての的確なアドバイスだと思う。


 だけど、その助言には従えなかった。