「今日みたいな日はここじゃなくもっと行く場所があるでしょ」

「残念、ついにフラれちゃってさ」


 沈んだ感じにするには情けなくて明るめのトーンでそう開き直るとマスターはへぇ、と片眉を跳ね上げた。


「中田君ほどのいい男振るなんてそりゃあ見る目ない女だね」

「あーもうその言葉だけで救われるよ」

「例のお姉さん?」

「そ、凛ネェ」


 『凛ネェ』とは若山凛。

 俺の七つ年上の想い人…だった人。

 初めて会った時は俺が中一の時でアニキの先輩の彼女って立場だった。
 うちが溜まり場になってたのもあって年の離れた俺も輪に入らせてもらってた。

 弟が欲しかった凛ネェは俺のことが大層大事にしてくれていつも構ってくれてた。

 女兄弟のいない俺も年上の、――綺麗な『女の人』が優しくしてくれるのが嬉しくていつも凛ネェばかり見ていた。
 

 だけど、もう。