冷い夜風から逃げるようにドアベルを鳴らしながら店内へと滑りこむ。

 いつもは静かでジャズが心地よく流れる店だが今日ばかりは陽気なクリスマスソングと喧噪が狭い店内を満たしていた。


 いつもなら客足も落ち着きゆったりとした時間帯でオーナーであるマスターがカウンターでグラスを磨いたり翌日の仕込みをしている頃だ。

 だが流石は天下のクリスマス。
 明日が土曜ともあって店内はなかなか終りが見えない盛況ぶりだった。


「いらっしゃい、ごめんね今日は騒がしくって」

「いや分かって来てるから」


 俺の姿を見とめたマスターがカウンター越しに謝る。
 それを片手で制し何組かのカップルで占拠されたカウンターの一番端の席を陣取った。

 すぐにマスターが「いつもの?」と聞いてきたので頷き答える。
 その頷き一つでマスターはすぐにシェイカーを手にし流れるような手つきで数種類のリキュールを銀のボトルに流し込んだ。