「話をちゃんと聞いて」



声のトーンを落として私が真剣に話してるのに、善はなぜか優しい眼差しを私に向ける。



「今もある意味2人きりだよね」



善はそう言って、辺りを見渡した。

たしかに私たち以外に歩いている人はいない。
真っ暗な空と少しだけ星が見え、静かでシーンとしている。



「外は論外です」

「今、したいのに」

「……だめなものはだめ」

「じゃあ、キスしたいこの気持ちはどうすればいい?」



どうすればいいって言われても……。
未だかつて"キスしたい気持ち"について相談されたこともなければ、悩んだこともなかったのでまったくわからない。
さすがに私の引き出しにも入ってなかった。



「……走る?」



真面目に考えた結果、私の答えはそれだった。



「なにかを発散するには走るのが1番いいよ」

「わかった。なら、競争しよ」