「秦くん!」
塾の廊下で私が名前を呼ぶと、秦くんは立ち止まって振り返った。
「あっちで話そうか」と、私たちはとなりの空き教室で話すことにした。
「若菜から話しかけてくれるのはじめてだね」
「……そう、だね」
「どうしたの?」
「この前のまま話さないのはモヤモヤしていやだったから……ちゃんと話したいと思って」
「……」
「私のこと、好きになってくれてありがとう」
「……うん。俺ちゃんと好きだったよ。変な形の愛だったかもしれないけど。でも、あの日にはっきり言われて諦めがついた。もう追いかけてもしょうがないなって」
「……」
「あ、それと俺この春期講習終わったらこの塾やめるんだ」
「そうなんだ……」
「寂しい?」
そう聞かれてなんで答えればいいかわからず言葉につまる私を見て、「ごめんごめん、困らせたね」と笑う秦くん。