「洗面台で見てくる」と言って私は立ち上がり、柊木善の横を通り過ぎようとしたそのとき……。
彼に腕をつかまれたことにより、それ以上先へ進めなくなった。
「なに……」と私が口を開いた同時に、柊木善の指が私の唇に一瞬だけ触れた。
心臓がーー止まるかと思った。
「とれた」
柊木善はそう言ってイスに座り、指でとってくれたミートソースをティッシュで拭く。
平然と私の唇を触ってきた柊木善の気持ちが知れない。
こんなにドキドキしてるのは私だけのようだ。
「食べないの?」
なにごともなかったかのように振る舞う柊木善。
私をからかってこんな風に触れてくるのか、それとも本当になにもわかっていないのか……。
やっぱり、あざとい系男子なの?
とりあえず私は席に戻り、残りのスパゲッティを口に運ぶ。
柊木善はもう食べ終わっているはずなのに、なぜなその場から動かず……私のことをジッと見てくる。
それ以上見られると顔に穴が開きそうなんですが……。
さっきは見られたら食べづらいとか言ってたくせに自分だってものすごく見てくるじゃない。
どうせからかってるんだろうと、私は気づかないふりをしてなんとか食べ終わった。