腕をつかまれたまま、私はドアに背中を押しつけられた。



「なんでおまえにがっかりされなきゃならないの?」



柊木善は再び無表情に戻るが、いつもよりも低い声で怒っているのがなんとなくわかった。



「……だって、そういうことって普通は好きな人とするものでしょ?」



わざと私に顔を近づけ、彼は鼻で笑う。



「それ、おとぎ話じゃなくて?」

「……っ」

「そっちの勉強もしたほうがいいんじゃない」

「……」

「男って、好きじゃなくてもそういうことできるんだよ」



私の中の小さな恋愛像が確実に崩れる音がした。



「勉強と妄想ばっかで、頭の中硬くなってるんじゃないの」

「……そのとおりだね。余計なこと言ってすみませんでした」