月日の流れは早い。六歳の時に前世の記憶を思い出してから、気づけば十年の時が流れていた。
新年のパーティーには、あの後も毎年呼ばれているが――二回目からは、修道院に招待状が来るようになった。エマも直接、殿下が迎えに行くようになったので、特に目立った活動のない現世父には招待状が届かなくなった。
それが耐えられなくなったのか、今では現世父はエマの母と共に王都を離れ、領地に引きこもっている。会わなくなるので、フェードアウト自体は良い。しかし残されたエマが心配だったが王宮で暮らすようになり、王太子妃教育を受けることになったので一安心だ。
そして十六歳になった私は、乙女ゲームでは侯爵令嬢として魔法を学ぶ為、学園に入学したらしい。
けれど、今の私が着る予定なのは女子学生の着る制服ではなく、修道服で――更に立場も、一生徒ではない。
(まさか生徒としてじゃなく、講師として通うことになるとは)
しかも生活魔法のではなく、寄り添い部屋の手腕を買われてだ。ただでさえ多感な時期だが、今年は更に殿下達が入学するので週に一度、学園に出張するように言われた。怪我などに対しての養護教諭はいるらしいので、イメージとしては前世の学校にいたスクールカウンセラーだろう。
初めての試みなので、本日のパーティーでは私が四月から講師になると、紹介されることになっている。修道服で参加しようと思ったが、周りに止められて今回もドレスだ。二回目からも、聖女への寄付が形に出来ると周りがはりきり、ドレスが送られてくる。デザインは変えているが、初めて着たドレスを私が気に入っているので、今日も濃い緑の生地に刺繍があしらわれたドレスだ。
「ラウルさん、今日もありがとうございます」
「いや、春からは俺も週一で通うのだから、一言くらいは挨拶すべきだろう」
「……恐縮です」
そして、寄り添い部屋の護衛であるラウルさんは、パーティーの時のエスコートを引き受けてくれていた。四月からは、学園にもついてきてくれることになっている。
元々が年上に見えていたのでこの十年、ほとんど見た目が変わっていないと言うか、逆に年相応になった。この調子だと、これからは年より若く見えるようになるのだろうか?
とは言え、無表情な彼は端正な面差しのせいもあって迫力がある。身長だけではなく、胸もしっかり育った私としては、ラウルさんがいてくれると安心感が半端ない。
(あと二年で成人だから、そろそろ独り立ちしなくちゃなんだけど……有名人なだけじゃなく、現世の私ってば美人さんだから。一人歩きは色々と、危険なのよねぇ)
(もう、カナさんってば)
しみじみと思っていると、現世の私が照れながら窘めてきた。
私達のルームシェア状態も、相変わらずである。そして成長しても、現世の私は相変わらず可愛くて天使だ。
「……お姉さま!」
そんな私に、前方から声がかかる。
青いドレスに身を包み、満面の笑顔で手を振っているのはエマだ。子供の頃はピンクのドレスが多かったが、ここしばらくは殿下の瞳の色を着ることが多い。
「やあ、来たな。姉上」
「はぅっ!」
エマの隣にはあえて自分ではなく、エマの瞳の色だと言って青の衣装に身を包んだ殿下がいる。気づけば彼からは姉呼びされるようになり、いつまで経ってもエマは慣れないのか、真っ赤になって口元に手を当て悶えている。
「よう、聖女!」
「エドガー……二人とも、久しぶりですね」
「よくいらしてくれました。春からも、よろしくお願いします」
二人の背後にいたのは、背が伸びて逞しくなった脳筋と、眼鏡をかけてますますツンデレな感じになった猪。そして伸ばした髪を首の後ろで束ね、ますます性別不明な美人になった暴風雨だ。
(うん、確かに乙女ゲームな感じのメンバーだ)
前世で実際には見たこともやったこともないが、ゲームのパッケージはこんな感じなのだろう。もっとも、彼らの笑顔の先にいるのは悪役令嬢である現世の私だが。
(まあ、今の私は悪役でも令嬢でもないけどね)
そう心の中で呟くと、私は満面の笑顔を一同に向けて言った。
「……皆様、ごきげんよう!」
さよならではなく、会えて嬉しいという意味を込めて。
新年のパーティーには、あの後も毎年呼ばれているが――二回目からは、修道院に招待状が来るようになった。エマも直接、殿下が迎えに行くようになったので、特に目立った活動のない現世父には招待状が届かなくなった。
それが耐えられなくなったのか、今では現世父はエマの母と共に王都を離れ、領地に引きこもっている。会わなくなるので、フェードアウト自体は良い。しかし残されたエマが心配だったが王宮で暮らすようになり、王太子妃教育を受けることになったので一安心だ。
そして十六歳になった私は、乙女ゲームでは侯爵令嬢として魔法を学ぶ為、学園に入学したらしい。
けれど、今の私が着る予定なのは女子学生の着る制服ではなく、修道服で――更に立場も、一生徒ではない。
(まさか生徒としてじゃなく、講師として通うことになるとは)
しかも生活魔法のではなく、寄り添い部屋の手腕を買われてだ。ただでさえ多感な時期だが、今年は更に殿下達が入学するので週に一度、学園に出張するように言われた。怪我などに対しての養護教諭はいるらしいので、イメージとしては前世の学校にいたスクールカウンセラーだろう。
初めての試みなので、本日のパーティーでは私が四月から講師になると、紹介されることになっている。修道服で参加しようと思ったが、周りに止められて今回もドレスだ。二回目からも、聖女への寄付が形に出来ると周りがはりきり、ドレスが送られてくる。デザインは変えているが、初めて着たドレスを私が気に入っているので、今日も濃い緑の生地に刺繍があしらわれたドレスだ。
「ラウルさん、今日もありがとうございます」
「いや、春からは俺も週一で通うのだから、一言くらいは挨拶すべきだろう」
「……恐縮です」
そして、寄り添い部屋の護衛であるラウルさんは、パーティーの時のエスコートを引き受けてくれていた。四月からは、学園にもついてきてくれることになっている。
元々が年上に見えていたのでこの十年、ほとんど見た目が変わっていないと言うか、逆に年相応になった。この調子だと、これからは年より若く見えるようになるのだろうか?
とは言え、無表情な彼は端正な面差しのせいもあって迫力がある。身長だけではなく、胸もしっかり育った私としては、ラウルさんがいてくれると安心感が半端ない。
(あと二年で成人だから、そろそろ独り立ちしなくちゃなんだけど……有名人なだけじゃなく、現世の私ってば美人さんだから。一人歩きは色々と、危険なのよねぇ)
(もう、カナさんってば)
しみじみと思っていると、現世の私が照れながら窘めてきた。
私達のルームシェア状態も、相変わらずである。そして成長しても、現世の私は相変わらず可愛くて天使だ。
「……お姉さま!」
そんな私に、前方から声がかかる。
青いドレスに身を包み、満面の笑顔で手を振っているのはエマだ。子供の頃はピンクのドレスが多かったが、ここしばらくは殿下の瞳の色を着ることが多い。
「やあ、来たな。姉上」
「はぅっ!」
エマの隣にはあえて自分ではなく、エマの瞳の色だと言って青の衣装に身を包んだ殿下がいる。気づけば彼からは姉呼びされるようになり、いつまで経ってもエマは慣れないのか、真っ赤になって口元に手を当て悶えている。
「よう、聖女!」
「エドガー……二人とも、久しぶりですね」
「よくいらしてくれました。春からも、よろしくお願いします」
二人の背後にいたのは、背が伸びて逞しくなった脳筋と、眼鏡をかけてますますツンデレな感じになった猪。そして伸ばした髪を首の後ろで束ね、ますます性別不明な美人になった暴風雨だ。
(うん、確かに乙女ゲームな感じのメンバーだ)
前世で実際には見たこともやったこともないが、ゲームのパッケージはこんな感じなのだろう。もっとも、彼らの笑顔の先にいるのは悪役令嬢である現世の私だが。
(まあ、今の私は悪役でも令嬢でもないけどね)
そう心の中で呟くと、私は満面の笑顔を一同に向けて言った。
「……皆様、ごきげんよう!」
さよならではなく、会えて嬉しいという意味を込めて。