王宮のパーティーに着るエマのドレスは、髪の色と同じピンクだと聞いていた。
 そうなると、私の髪に合わせたら黒いドレスになるんだろうか? それでは完全に悪役だ。いや、まあ、実際に悪役令嬢ではあるんだけど。
 そんなことを考えていたら、デザイナーであるシャルロッテさんは深い緑色のドレスをスケッチブックに描いていた。

「明るい黄色の糸で花を刺繍すれば、華やかですわ。聖女様は色白ですし、お似合いですわよ」

 色白なのは認めるが(逆に日に焼けないので、陽射しですぐ赤くなってしまう)今まで着せられたドレスも寒色系で、むしろ地味(もちろん、生地は高級なのだが)だった気がする。
 けれど完成したドレスを着た時に、私はシャルロッテさんの言葉が正しいことを知った。

(可愛い……可愛いよ、イザベル!)
(……ありがとう、ございます)

 子供なのでコルセットはないが、女の子らしくスカートがふんわり広がり、刺繍がふんだんに施されているので、本当に華やかで可愛らしい。
 それこそ森の妖精のような、可憐な美幼女となったのに、私は心の中で拍手喝采をし、現世の私(イザベル)を照れさせた。



 王宮までの移動をどうしようかと思っていたら、アントワーヌ様が馬車を手配してくれていた。更に、護衛としてラウルさんも同乗してくれた。

「パーティー会場には入れないが、父親と合流したり解散する時は傍にいよう」
「ラウルさん、ありがとうございます」
「いや……」

 そこで一旦、言葉を切ると向かい合って座っていたラウルさんが話の先を続けた。

「こちらこそ、感謝する」
「え?」
「修道院に、残ってくれて……これからも、俺は君を守る」
「ラウルさん……」

 表情はほとんど変わっていないが、私を見るその緑の瞳は固い決意を宿していた。
 嬉しく思ったところで、馬車が王宮へと到着し――先に降りたラウルさんが抱き上げようとするのを辞退し、手を取って貰って歩き出した。

「……イザベル」

 名前を呼ばれて目をやると、礼装に身を包んだ現世父が会場の入り口前で私を見ていた。周りの目を気にしてポーカーフェイスを貫こうとしているが、その眉を不快げに寄せられている。

(泣きつかないで、ここまで揃えちゃったからね)

 心の中で呟いて舌を出すと私はラウルさんに一礼し、気合いを入れてにっこりと笑って手を差し出した。

「お父様」
「……行くぞ」
「ええ」

 そんな私の手を取ると、現世父はパーティー会場へと入っていった。刹那、会場にいた人達が声を上げる。

「まあ、あれが聖女様?」
「何て可愛らしい……」

 思えば寄り添い部屋で、魔法の壁越しにやり取りしていたので互いに顔を知らないんだった。とりあえず、悪口ではないようなのでホッとする。
 見ると、王座近くのテーブル前にエマと、金髪の天使みたいな男の子。そして、そんなエマ達を取り巻く暴風雨(アルス)達がいる。

(あの金髪の子が殿下(ユリウス)かしら?)

 そう思い、皆に微笑みかけながら現世父と玉座の前に向かい――足が止まり、現世父がお辞儀したところで、私もカーテシーをして王の言葉を待った。