そして三日後、現世父が修道院へとやって来た。
 院長室でカーテシーをして迎えた私に、現世父は開口一番言い放った。

「来たな。よし、帰るぞ」
「嫌です」
「何?」

 失礼この上ない現世父に頭痛を覚えつつも、私はにっこり笑ってその言葉を一蹴した。そんな私に、現世父が眉を顰める。

「院長、話をしていなかったのか? いいか? お前は我が家に戻り」
「戻りません」
「何だと!?」
「お母様の死後、修道院に来ると決めた時に私達はお別れしておりますわ。パーティーの為だけに、お手を煩わせるつもりはございません」
「勘違いするな! みすぼらしい姿で王宮に来られても、我が家の恥だからだ! それにもう一年以上経ったのだから、祈りは十分だろう。遊ばせておくつもりはない」

 現世父、色々とアウトだと思う。(ケイン)みたいなツンデレではなく、単に暴力的な発言だ。最低な物言いに、隣にいるクロエ様の右頬がたまらず引きつっているのが解った。
 人目を気にしないのか――いや、少しでも気にしていれば、そもそも本妻を置いて家を出たりしないか。内心、やれやれと思いつつ私は口を開いた。

「恥をかかせるつもりはございませんし、遊んでいるつもりもございません」
「減らず口を! お前は我が家の、跡継ぎなんだぞ!?」
「セルダ侯爵様? 彼女は、教会にも認められた聖女です。本人が希望するならともかく、そうでないのならお引き取りを」

 見かねたのか、クロエ様が口添えしてくれる。そうしたら何と、現世父はクロエ様にまで苛立ちをぶつけた。

「何? 家族の話に、口を出さないで貰おうか!」
「院長様を、怒鳴らないで下さいませ……それに、家族とは誰のことですが? 血のつながりこそありますが、一緒に暮らした日数で言うと院長様の方が長いですわ」
「ぐっ……」
「……もう一度言います。恥をかかせるつもりは、ございません。こちらで支度をしますので、ご安心下さい」
「安心出来るか! それに、王に謁見する時は未婚の娘は父親がエスコートするものだ」
「では、現地集合・現地解散で」
「出来るものなら、やってみろ! どうせすぐ、泣きつくに決まってるがなっ」

 そう捨て台詞を吐いて、現世父は院長室を立ち去った。足音が完全に聞こえなくなったところで、私は詰めていた息を吐いた。

「…………はぁ」
「イザベル、大丈夫?」
「ええ……お騒がせしました」
「いいのよ。それより、パーティーの支度はどうするの? あの調子だと、妨害してきてもおかしくないわ?」
「……そちらも、大丈夫です」

 気遣ってくれたクロエ様に、私は安心させるように笑ってみせた。