研修をしてみて解ったが、ビアンカ様は寄り添いにとても向いていた。
少々、話し方がフランクではあるのだが、修道女なので(正しくは献身者だが、言わなければ解らない)平民だと思われるから問題ない。更に、相手を屈託なく褒めたり励ましたりするので、聞いて貰った相手も気が晴れて帰る。
顧客と言うのも何だが、寄り添い部屋に来た者達からの満足度は、男女共にかなり高かった。
そんな彼女が再婚相手と出会った――と言うか、話をしたのは今から二月程前のことだった。
「婚約者に、逃げられたんだ……俺のような厳つい男になど、嫁ぎたくないと」
私が傍にいなくても、最低限守れるように闇魔法での壁は寄り添い中張り続けている。
だから相手の顔は見えないがそう語った声は重低音で、確かに若い女性なら怯んでしまうものだったそうだ。
しかしそんな男に、ビアンカは平然と返した。
「まあ、酷い。その相手の言葉こそ、厳ついでしょうに」
「……えっ?」
「厳ついって、粗いとか乱暴って意味もあるじゃないですか? 好きな理由は素直に伝えて良いですが、嫌いな理由をわざわざ伝える理由はあります? 婚約者ってことは、お互いの家の付き合いも絡んでますよね?」
「あ、ああ」
「……口が過ぎましたね。失礼しました」
「いや……もう少し、話してくれないか?」
最初は、声だけのやり取りだった。そして、傷心を癒した男性は修道院にビアンカ様への面会を申し込み、院長室で対峙することになった。
「確かに、盗賊並みに大きくて厳つかったけど……会ってすぐに私に求婚してきた時は、真っ赤になって可愛かったし。あんまり初心だから、私みたいな再婚女には申し訳なくて」
白い結婚だったとは言え、ビアンカ様は一度嫁いでいる。だから、ビアンカ様は求婚を一度は断ったそうだが――逆に、ますます惚れられたらしい。更に貴族ではないが、貴族も顧客に持つような商人だったので、ビアンカ様の実家は賛成し。男性の実家も、婚約破棄された息子を救ってくれた恩人だと感謝するばかりらしい。
「アントワーヌ様、お世話になりました……そしてイザベル、ありがとう。冗談のつもりが、本当になったわ」
そして明るい笑顔で同室の私達にそう言うと、ビアンカ様は颯爽と修道院を去っていった。
「私達修道女は、特に出会いは求めてないけど……寄り添いで培う傾聴力や共感力は、花嫁修行の一つとして有効かもしれないわね」
などとクロエ様が呟いていたので今日、院長室に呼ばれたのは生活魔法のように、学園ででも教えることになったのかと思ったのだが。
「あなたのお父様から、先触れが来たわ……三日後に迎えに来るから、それまでに帰り支度を済ませるようにと」
「…………えっ?」
院長室に到着した私に、クロエ様は思いがけないことを言い――その内容を理解した途端、私はショックのあまりその場に座り込んでしまった。
いや、正確には前世の私じゃなく、現世の私がだ。
少々、話し方がフランクではあるのだが、修道女なので(正しくは献身者だが、言わなければ解らない)平民だと思われるから問題ない。更に、相手を屈託なく褒めたり励ましたりするので、聞いて貰った相手も気が晴れて帰る。
顧客と言うのも何だが、寄り添い部屋に来た者達からの満足度は、男女共にかなり高かった。
そんな彼女が再婚相手と出会った――と言うか、話をしたのは今から二月程前のことだった。
「婚約者に、逃げられたんだ……俺のような厳つい男になど、嫁ぎたくないと」
私が傍にいなくても、最低限守れるように闇魔法での壁は寄り添い中張り続けている。
だから相手の顔は見えないがそう語った声は重低音で、確かに若い女性なら怯んでしまうものだったそうだ。
しかしそんな男に、ビアンカは平然と返した。
「まあ、酷い。その相手の言葉こそ、厳ついでしょうに」
「……えっ?」
「厳ついって、粗いとか乱暴って意味もあるじゃないですか? 好きな理由は素直に伝えて良いですが、嫌いな理由をわざわざ伝える理由はあります? 婚約者ってことは、お互いの家の付き合いも絡んでますよね?」
「あ、ああ」
「……口が過ぎましたね。失礼しました」
「いや……もう少し、話してくれないか?」
最初は、声だけのやり取りだった。そして、傷心を癒した男性は修道院にビアンカ様への面会を申し込み、院長室で対峙することになった。
「確かに、盗賊並みに大きくて厳つかったけど……会ってすぐに私に求婚してきた時は、真っ赤になって可愛かったし。あんまり初心だから、私みたいな再婚女には申し訳なくて」
白い結婚だったとは言え、ビアンカ様は一度嫁いでいる。だから、ビアンカ様は求婚を一度は断ったそうだが――逆に、ますます惚れられたらしい。更に貴族ではないが、貴族も顧客に持つような商人だったので、ビアンカ様の実家は賛成し。男性の実家も、婚約破棄された息子を救ってくれた恩人だと感謝するばかりらしい。
「アントワーヌ様、お世話になりました……そしてイザベル、ありがとう。冗談のつもりが、本当になったわ」
そして明るい笑顔で同室の私達にそう言うと、ビアンカ様は颯爽と修道院を去っていった。
「私達修道女は、特に出会いは求めてないけど……寄り添いで培う傾聴力や共感力は、花嫁修行の一つとして有効かもしれないわね」
などとクロエ様が呟いていたので今日、院長室に呼ばれたのは生活魔法のように、学園ででも教えることになったのかと思ったのだが。
「あなたのお父様から、先触れが来たわ……三日後に迎えに来るから、それまでに帰り支度を済ませるようにと」
「…………えっ?」
院長室に到着した私に、クロエ様は思いがけないことを言い――その内容を理解した途端、私はショックのあまりその場に座り込んでしまった。
いや、正確には前世の私じゃなく、現世の私がだ。