そんな風に、エマは攻略対象達に認められた。そしてその報告をしてから今回まで、およそ一か月ほど経ったが今のところは良好な関係を築いているらしい。
「もっとも、イザベル様みたいにいつ、どこでイレギュラーが……あるいは、ゲームの強制力が発生するか解らないので。これからも、精進します! では、また来月! イザベル様、ごきげんようっ」
そう高らかに宣言すると、エマは寄り添い部屋を後にした。顔は見えないが、元気そうで何よりである。
(でも、そうか……ネット小説で、あったわね。強制力って)
たとえば、悪役令嬢が婚約を断ったり悪事を働かずに生き延びようとしても、それを果たせなかったり。あるいはヒロインが、いくら攻略対象を避けようとしても逃げられなかったりという感じだ。
(私の場合だと、攻略対象との婚約? んー、でも脳筋や暴風雨、猪は私が修道院にいるのを、認めてくれてるし……王子とは、そもそも会ってないし)
大丈夫よね、と頷いたところで次の訪問者が来たのかチリン、とベルが鳴った。
「お待たせ致しました。本日は、いかがなさいましたか?」
「……実は」
そして、年配の女性が孫息子の話を始めた為、強制力についてはすっかり頭から吹き飛んで――自分がフラグを立ててしまったことに、私はまるで気づいていなかった。
※
そこから数日が経ち、そろそろ受付時間が終わる頃――チリン、と呼び鈴の鳴る音がした。
「お待たせ致しました。本日は、いかがなさいましたか?」
「…………」
「…………」
私が声をかけると、沈黙が返ってきた。
受付時間は決めているが、時間内に来た相手は時間を過ぎても最後まで受けることにしている。だから私は急かさず、相手が口を開くのを黙って待った。
そして、どれくらい経っただろうか――聞こえてきた声に、私は戸惑うことになる。
「……君が聖女・イザベルか?」
その声は、イザベルと同じくらいの子供のものだった。口調から男の子かと思うが、高くあどけない声なので正直、どちらか判断し難い。
驚いたが、エドガー達もあの年ながらにコンプレックスを抱えていた。それ故、困惑が声に出ないように気をつけながら私は問いかけに頷いた。
「はい、私がイザベルです」
「そうか、君が……」
「はい」
「話には聞いていたが、こうして話すのは初めてだな」
「はい? ……失礼しました」
気をつけていたが、駄目だった。思わず声を上げてしまった。何だか相手は勝手に話を進めているが、こちらとしてはツッコミどころ満載である。
(え? 話に聞いてたって……誰に? まあ、寄り添い部屋の噂かもしれないけど)
動揺しつつも、私は話を聞く側であって質問する側ではない。だからツッコミを堪え、何とかこの場をリカバリしようとした。けれど、そんな私の努力を他所に壁の向こうの相手は言葉を続けた。
「私の婚約者や学友達、あと教師から君の話を聞いている」
「……えっ」
「だが、私だけが君と会っても話してもいないので、こうして話に来た訳だ」
「…………サヨウデゴザイマスカ」
今の人間関係を聞く限り、思い当たるのは一人しかいない。エマの推しである王子・ユリウスだ。
思い至ったのと言葉の内容に、我ながら棒読みなあいづちを打ちつつ、私は声に出さずに自分へツッコミを入れた。
(立った立った、フラグが立った……って、違うからっ! てか扱いが、聖女って言うより動物園のパンダみたいになってない!?)
「もっとも、イザベル様みたいにいつ、どこでイレギュラーが……あるいは、ゲームの強制力が発生するか解らないので。これからも、精進します! では、また来月! イザベル様、ごきげんようっ」
そう高らかに宣言すると、エマは寄り添い部屋を後にした。顔は見えないが、元気そうで何よりである。
(でも、そうか……ネット小説で、あったわね。強制力って)
たとえば、悪役令嬢が婚約を断ったり悪事を働かずに生き延びようとしても、それを果たせなかったり。あるいはヒロインが、いくら攻略対象を避けようとしても逃げられなかったりという感じだ。
(私の場合だと、攻略対象との婚約? んー、でも脳筋や暴風雨、猪は私が修道院にいるのを、認めてくれてるし……王子とは、そもそも会ってないし)
大丈夫よね、と頷いたところで次の訪問者が来たのかチリン、とベルが鳴った。
「お待たせ致しました。本日は、いかがなさいましたか?」
「……実は」
そして、年配の女性が孫息子の話を始めた為、強制力についてはすっかり頭から吹き飛んで――自分がフラグを立ててしまったことに、私はまるで気づいていなかった。
※
そこから数日が経ち、そろそろ受付時間が終わる頃――チリン、と呼び鈴の鳴る音がした。
「お待たせ致しました。本日は、いかがなさいましたか?」
「…………」
「…………」
私が声をかけると、沈黙が返ってきた。
受付時間は決めているが、時間内に来た相手は時間を過ぎても最後まで受けることにしている。だから私は急かさず、相手が口を開くのを黙って待った。
そして、どれくらい経っただろうか――聞こえてきた声に、私は戸惑うことになる。
「……君が聖女・イザベルか?」
その声は、イザベルと同じくらいの子供のものだった。口調から男の子かと思うが、高くあどけない声なので正直、どちらか判断し難い。
驚いたが、エドガー達もあの年ながらにコンプレックスを抱えていた。それ故、困惑が声に出ないように気をつけながら私は問いかけに頷いた。
「はい、私がイザベルです」
「そうか、君が……」
「はい」
「話には聞いていたが、こうして話すのは初めてだな」
「はい? ……失礼しました」
気をつけていたが、駄目だった。思わず声を上げてしまった。何だか相手は勝手に話を進めているが、こちらとしてはツッコミどころ満載である。
(え? 話に聞いてたって……誰に? まあ、寄り添い部屋の噂かもしれないけど)
動揺しつつも、私は話を聞く側であって質問する側ではない。だからツッコミを堪え、何とかこの場をリカバリしようとした。けれど、そんな私の努力を他所に壁の向こうの相手は言葉を続けた。
「私の婚約者や学友達、あと教師から君の話を聞いている」
「……えっ」
「だが、私だけが君と会っても話してもいないので、こうして話に来た訳だ」
「…………サヨウデゴザイマスカ」
今の人間関係を聞く限り、思い当たるのは一人しかいない。エマの推しである王子・ユリウスだ。
思い至ったのと言葉の内容に、我ながら棒読みなあいづちを打ちつつ、私は声に出さずに自分へツッコミを入れた。
(立った立った、フラグが立った……って、違うからっ! てか扱いが、聖女って言うより動物園のパンダみたいになってない!?)