ようやく泣き止んだエマが深呼吸の後、おもむろに口を開く。
「……あの、イザベル様はわたしと同じ、転生者なんですか?」
(うん、そうね。そう来るわよね)
何せ、キャラだの地雷だの、この世界にはない言葉を私は普通に使ったのだ。キャラだけなら、エマが使っていたからと逃げることも出来るが――地雷は完全にアウトだ。魔法があるせいか、この世界には銃や爆弾という発想自体がない。
だから観念して、私はエマからの問いに答えた。
「どちらかと言うと、憑依に近いかな? メインは前世の私だけど、私の中には現世の私であるイザベルも存在するし……あ、でもあなたの話に出ていた……のもだけど、乙女ゲーム自体やったことないの。ネット小説は読んでたから、雰囲気くらいなら解るけどね」
「そうなんですね……」
「あ、無理に敬語使わなくていいわよ?」
前世の年齢は解らないが、先程のやり取りのせいかエマは敬語で話してくる。
私も自分の方が年上(キャラへの接し方など)な感じだから、敬語を使ってはいないけど――現世は同年代だし、悪い子じゃなさそうなのでそう言った。
だけど、エマは大きく目を見開いた後、ふるふると首を横に振った。
「いえ……これで。あ、わたしの前世の名前は槇村ゆかりって言います。呼びやすい方で……あなたのことは、前世の名前と現世の名前、どちらで呼んだ方が良いですか?」
「私は、市川加奈……だけど。私達は、現世の名前の方で呼び合う方が良いかも……その、さっきのエマ、正直隠そうとして大分、とっ散らかって言い難そうだったし。うっかり口滑らせた場合、あだなって言うのはお互い苦しいしね」
「あ、あはは……失礼しました」
うん、自分から名乗ったし、呼び方も勝手に決めつけないし。暴走癖はあるけど、むしろ良い子だわ。
だからこそ私は顔を上げ、話を聞いていて引っかかったことを口にした。
「あのね? さっきの、イザベルの要望もなんだけど……婚約者の交代は、現実として無理だと思うわ」
「……えっ?」
私の言葉に、エマがキョトンとして声を上げる。
多分、彼女としては色々と考えたんだと思うけど――内心、やれやれと思いながら私は問題点を説明した。
「まあ、お互いに中身が違う影響か、色々ゲームとは展開は違っていて……今は、エマの婚約者な訳でしょう? それなのに、血筋はともかく家を出ている私が、いきなりしゃしゃり出たらマズくない?」
「で、でもっ、まだ公表されてはいないですし……確かに、わたしの光属性も選ばれた理由だとは思いますが! わたしは半分平民で、イザベル様はれっきとした貴族の令嬢ですし……しかも、聖女と呼ばれています。交代するなら、むしろ今かとっ」
一生懸命というか、必死にエマが言ってくる。
まあ、確かに血筋はね? 貴族以上の婚姻となると大事だと思うけど、他のご令嬢ではなくエマが選ばれたっていうことはやっぱり光属性と、あと他と比べて淑女として十分、及第点だったんだと思う。お互い、前世はこっちで言うところの平民なのに頑張ったんだね。
……ただ、ちょっと空回りもしているんじゃないかな?
「あと私、殿下に会ってないしね。と言うか、あなたと婚約するのが嫌なら、今日の顔合わせの前に断ってるんじゃない? それなのに、婚約者が交代したら……それはそれで、殿下ショックだと思うけど?」
「でも、ユリウス様の過去を考えるとっ」
「うん、だからね? 直接、本人に聞いた訳じゃないでしょう? 現にゲームでも、気持ちは変わったとは言え、イザベルと婚約していたんだし……恋かどうかは解らないけど、何らかの情はあったんじゃないかな」
「……それは」
私も、前世は彼氏いない歴と年齢がイコールだったので、そう大したことは言えない。でも、ゲームの知識が逆にエマを暴走させている気がする。
だから、と思って自分の考えを口にすると――エマも思い当たったのか、反論をやめた。
「……あの、イザベル様はわたしと同じ、転生者なんですか?」
(うん、そうね。そう来るわよね)
何せ、キャラだの地雷だの、この世界にはない言葉を私は普通に使ったのだ。キャラだけなら、エマが使っていたからと逃げることも出来るが――地雷は完全にアウトだ。魔法があるせいか、この世界には銃や爆弾という発想自体がない。
だから観念して、私はエマからの問いに答えた。
「どちらかと言うと、憑依に近いかな? メインは前世の私だけど、私の中には現世の私であるイザベルも存在するし……あ、でもあなたの話に出ていた……のもだけど、乙女ゲーム自体やったことないの。ネット小説は読んでたから、雰囲気くらいなら解るけどね」
「そうなんですね……」
「あ、無理に敬語使わなくていいわよ?」
前世の年齢は解らないが、先程のやり取りのせいかエマは敬語で話してくる。
私も自分の方が年上(キャラへの接し方など)な感じだから、敬語を使ってはいないけど――現世は同年代だし、悪い子じゃなさそうなのでそう言った。
だけど、エマは大きく目を見開いた後、ふるふると首を横に振った。
「いえ……これで。あ、わたしの前世の名前は槇村ゆかりって言います。呼びやすい方で……あなたのことは、前世の名前と現世の名前、どちらで呼んだ方が良いですか?」
「私は、市川加奈……だけど。私達は、現世の名前の方で呼び合う方が良いかも……その、さっきのエマ、正直隠そうとして大分、とっ散らかって言い難そうだったし。うっかり口滑らせた場合、あだなって言うのはお互い苦しいしね」
「あ、あはは……失礼しました」
うん、自分から名乗ったし、呼び方も勝手に決めつけないし。暴走癖はあるけど、むしろ良い子だわ。
だからこそ私は顔を上げ、話を聞いていて引っかかったことを口にした。
「あのね? さっきの、イザベルの要望もなんだけど……婚約者の交代は、現実として無理だと思うわ」
「……えっ?」
私の言葉に、エマがキョトンとして声を上げる。
多分、彼女としては色々と考えたんだと思うけど――内心、やれやれと思いながら私は問題点を説明した。
「まあ、お互いに中身が違う影響か、色々ゲームとは展開は違っていて……今は、エマの婚約者な訳でしょう? それなのに、血筋はともかく家を出ている私が、いきなりしゃしゃり出たらマズくない?」
「で、でもっ、まだ公表されてはいないですし……確かに、わたしの光属性も選ばれた理由だとは思いますが! わたしは半分平民で、イザベル様はれっきとした貴族の令嬢ですし……しかも、聖女と呼ばれています。交代するなら、むしろ今かとっ」
一生懸命というか、必死にエマが言ってくる。
まあ、確かに血筋はね? 貴族以上の婚姻となると大事だと思うけど、他のご令嬢ではなくエマが選ばれたっていうことはやっぱり光属性と、あと他と比べて淑女として十分、及第点だったんだと思う。お互い、前世はこっちで言うところの平民なのに頑張ったんだね。
……ただ、ちょっと空回りもしているんじゃないかな?
「あと私、殿下に会ってないしね。と言うか、あなたと婚約するのが嫌なら、今日の顔合わせの前に断ってるんじゃない? それなのに、婚約者が交代したら……それはそれで、殿下ショックだと思うけど?」
「でも、ユリウス様の過去を考えるとっ」
「うん、だからね? 直接、本人に聞いた訳じゃないでしょう? 現にゲームでも、気持ちは変わったとは言え、イザベルと婚約していたんだし……恋かどうかは解らないけど、何らかの情はあったんじゃないかな」
「……それは」
私も、前世は彼氏いない歴と年齢がイコールだったので、そう大したことは言えない。でも、ゲームの知識が逆にエマを暴走させている気がする。
だから、と思って自分の考えを口にすると――エマも思い当たったのか、反論をやめた。