聖女呼びはされていたが、思えばそれ以上のこと(たとえば直接、会いに来たり)はエドガーが来るまでなかった。だから、エドガー襲来の後に私が首を傾げていると、ビアンカが教えてくれた。

「ああ、それはあの暴風雨が教会に言ったらしいわよ? 聖女は謙虚で慎み深いから、直接の対面は控えるように……生活魔法への感謝の気持ちは、寄付などで示すようにって」
「暴風雨」
「ピッタリでしょ?」

 驚きつつも、ありがたい内容だったが――それよりも、ビアンカ様のアルスを称する言葉が衝撃で、意識を持っていかれた。そんな私に、ビアンカ様が悪戯っぽく笑う。

「次期教皇の言葉だし、教会としては対面で聖女人気ばっかり上がるより、寄付の方が嬉しいからその方針で進めてるらしいけど……でも、あの暴風雨。王太子とそのご学友達の家庭教師してるらしくてね。その生徒の一人が、あの脳筋なんですって」
「脳筋」
「ピッタリでしょ?」
「……ええ」

 私同様、修道院から出ていない筈なのに、随分と詳しくて感心しつつも――ビアンカ様が、エドガーにまであだ名をつけていたことに驚いた。しかし、確かにピッタリなので頷く。
 ……そんな感じで、ビアンカ様のネーミングセンスが強烈だったので、私はご学友『達』と言っていたことをすっかり聞き流していた。



 突然、修道院を訪れた暴風雨(アルス)は、まず脳筋(エドガー)の来訪に対して謝罪をしてきた。

「先日は、エドガー様が大変失礼した」
「……いえ」
「来訪については、控えるように伝えたが……ああいう方なので。ただ剣の稽古をして、成果が出てからとのことなので、すぐには来ないと思う」
「さようでございますか」
「……ただ、同じく私が家庭教師をしているケイン様……宰相様のご子息も、聖女様に会いたいと」
「え」

 雇われとは少し違うかもしれないが立場的に、そして何より脳筋(エドガー)のあの勢いなら、暴風雨(アルス)が勝てなくても仕方がない。
 そう思っていたら、新たな名前が出てきて私は思わず身構えた。そんな私に、暴風雨(アルス)が立ち上がり深々と頭を下げる。

「聖女様へのお目通りをお願いするからと、すでに教会と修道院共に寄付金が渡されている」
「……宰相様のご子息様は、アルス様と同年代の方なのですか?」
「いや、六歳だ」
「え」

 ご学友だと聞いてはいたが、立場からだけではなく金銭で物を言わせるスタイルに対して思わず尋ねる。
 そうしたら、思った以上に幼児で驚いた。いや、まあ、イザベルも同じ六歳なのだが。

(私と同じ、転生者? じゃなかったら、逆にビックリだけど……何はともあれ、前払いされてるなら会わないとね)

 内心、やれやれとため息をつきながらも私は営業スマイルで暴風雨(アルス)に応えた。

「微力ながら、お役に立てるよう頑張ります」