「ん?」
視線を感じたのか凪くんがふいに振り返り、さらに心臓が跳ね上がった。
「ううんっ、何でもない」
視線を前に戻したとき、エレベーターの扉が開いた。
静かな廊下に、二つの足音が響く。
「ここだよ」
凪くんがひとつのドアの前で止まり、カギを開けた。
「お邪魔します……」
玄関を開けると廊下が伸びていて、突き当りがリビングになっているようだった。
廊下や扉は濃いグレーで、すごく落ち着いた感じの内装。
すぐ手前のドアを指して凪くんが言う。
「乃愛、先にシャワー浴びてきて」
「えっ? シャワーなんていいよっ。タオルを貸してもらえたら大丈夫。あと、ドライヤーでシャツは乾かし──」
「濡れた体を温めなきゃ意味ないでしょ」
だけど凪くんは、私の背中を押しながらお風呂場まで誘導する。
そんな。初めて来た凪くんのお家でお風呂を借りるとか、む、無理っ!