「だ、だいじょうぶ」


でもこれはもらえないよ。河村さんが凪くんのために作ったものだから。


凪くんだって、好きな女の子からもらったものを、私なんかにあげたくないでしょ……?


「そう?」


「うん」


タオルでわしゃわしゃと頭を拭く凪くん。


私がさっき入ったカモミールのお湯の香り。私と同じにおいのそれが、今日はなんだか切なくなってくる。


今日、誰とどこにいたの──?


聞きたいのに聞けない。


「……乃愛?」


髪を拭く手をとめ、凪くんの声が落ちる。


うつむいた私を下からのぞき込むように。


「どした?」


伸びてきた手が頬に触れる寸前。


「……っ、やっぱりなんでもない」


その手から逃れるようにして、私は和室を出て行った。


だって、これ以上触れられたら、もう戻れなくなりそうだったから。


凪くんに構われなければ、こんな想いをすることもなかったのに。


私の心の中に入ってきて、いつの間にか住み着いて。


私が生まれてはじめて恋をした人。


恋って、やっぱり苦しいよ……。