壁の時計は、すでに9時半を指していた。
「遅くなりました」
リビングのドアから顔だけ出して、声をかける凪くん。
私はテーブルの上にあった新聞をさっと顔の前に広げた。
普段読みもしないくせに、凪くんとどう顔を合わせたらいいかわからなくて。
「お帰りなさい。ご飯はほんとうにいらないの?」
「はい、食べてきました。急にすみません」
「いいのよいいのよ。これからもお友達とごはん食べてくることがあれば遠慮なく言ってね」
「ありがとうございます。じゃあ……お風呂に入ってきます」
凪くんはそれだけ言うと、中には入らずドアを閉めた。
そーっと新聞から顔を出す。