ついそっけない返事をしてしまった。だって、俺以外に可愛い顔を見せるから。


しまった、と思ったときには遅かった。


目をふせ、ぎこちなく唇を上げる乃愛。


せっかくの可愛い顔が歪んでいる。


今日はメガネが無くて、その顔がよく見えるっていうのに。


「ううん、なんでもない……」


乃愛は身をひるがえし、逃げるように教室を出て行ってしまった。


おそらく、今日一日会うやつ会うやつすべての人に「可愛い」と言われたであろう乃愛。


だけど、俺はその一言が言ってやれなかった。


だって、俺はもっと前から乃愛のことを可愛いと思ってたんだ。


乃愛に可愛いって言うのは、俺だけでよかったんだ。


そんな、俺のちっぽけなプライドが邪魔をした。