「く、黒澤先生……」
どうも乃愛は黒澤が苦手らしい。明らかに顔を背けてうつむいている。
「はは、黒澤せんせー、乃愛に嫌われてるんじゃないっすか?」
「ああ?」
俺が挑発すれば、威圧するような声を出す黒澤。
ピクッと乃愛の肩が上がった。
「乃愛がビビってるからやめてあげて」
「ふっ。カッコつけやがって。いつまでもダラダラしてねーで、ほら練習するぞ」
黒澤が笛を吹き、休んでいる部員たちに立つよう促す。
まだ5分しか経ってねえし。
クソッ。俺と乃愛の時間を邪魔しやがって。
「ゴメン乃愛。じゃあ練習戻るから」
「うん、がんばってね」
乃愛は小さく手をふって見送ってくれた。
乃愛が見ていると思ったら、練習にも気合が入る。
いつも来てくれたらもっと上達すんだろうな……なんて調子のいいことを思った。