「夜遅くに悪かった。ラファエルの事、頼んだぞ。結婚のために頑張ってくれ」
 「お、お待ちください、国王様っ!」


 頭の中で国王の言葉を整理しているうちに、アソルロ国王は話しを閉めようとしているのに気づいた。ハッとして、朱栞は彼を引き留めようとしたが、その言葉は虚しくも届かなかった。鏡の表面がまた歪み始めたのだ。そこにはもう国王の顔はなく、少しすると普通に鏡に戻っていた。


 「穂純さんが妖精の密売をしてる……?そして、ラファエルさんを攻撃した……そんなの信じられない。でも……。それに、最後の結婚のためって」


 考えもしなかった国王からの沢山の情報。それに、飲まれそうになりながらも、朱栞はしっかりと考えた。

 国王の話しを信じれるとすれば、穂純がこのシャレブレ国の世界に来てたら妖精の密売をしているというのだ。
 何故、そんな事をしているのかもわからない。それに、何故そんな密売が行われ、この国で国王も懸念している問題になっているのか。それを朱栞は今まで知ることもなかったのだ。ラファエル達によって、闇の部分を見ないようにしてもらっていただけの事だった。

 朱栞は、気づくと自然に手を強く握りしめていた。自分は守られていた。危険な事は知らなくてもいいのだ、と。シャレブレの事を覚えていくために勉強したはずだし、役に立ちたいと思っていた。けれど、暗い問題は知らなかった。
 それで、本当によかったのだろうか。

 朱栞は地下室の階段をゆっくりと上がった。
 すると、当たりは少しずつ明るくなっていった。朱栞は朝の光りを浴びて、人間から妖精の姿になりながらもゆっくりと歩いた。


 そして、向かったのはもちろん、ラファエルの元へだった。


 守衛の男達はまた来たのか、と言わんばかりにこちらを見ていたが、何も言わずにドアを開けてくれる。朱栞は「ありがとう」と言っただけで、すぐに彼の部屋へと入った。

 まだカーテンは閉められたままで、薄暗い、
けれど、陽の光りが入り込み彼の寝顔はしっかりと見ることが出来た。昨日よりも穏やかな表情のようで、朱栞は安心した。