「穂純さんがそんな事を………」
「おまえは、その男を随分信頼しているようだな」
「穂純は、そんな酷い事をするような人ではありません。私が知っている彼は、優しくて優秀で、穏やかな人でした。ですから、何かの間違えではないですか!?」
国王の前だ。冷静に話しをしなければいけない。そう心がけていたのに、一気にそれは崩れてしまった。焦燥から口調は早くなり声も大きくなってしまう。けれど、それを気にしていられるほど、朱栞は落ち着いてはいられなかった。
穂純はそんな事をする人ではない。部活では優しく慰めてくれたり、勉強を一緒にしてくれる親切で熱心な先輩。社会人になってからも気にかけてくれ、朱栞の仕事ぶりを信頼し褒めてくれた。大好きな人。
その相手をそんな犯罪者として扱われているのだから、冷静になれるはずがなかった。
それが一国の王の前だとしても。
けれど、朱栞とは違い、アソルロ国王は冷静だった。
朱栞の話を聞いてなお、質問を続ける。
「おまえが知っていたのは表の顔。誰しも裏の顔があるものだ。それを見せていなかっただけだろう」
「そんな事はっ!」
「では、ラファエルが負傷した原因が、そのセクーナという男にやられたものだと聞いても、おまえはその男を信じるのか」
「え……」
その事実は、朱栞を大きく動揺させた。
ラファエルが負傷した原因は、穂純。穂純が魔法を使い、ラファエルを攻撃したというのだ。到底信じられるものでもなかったが、国王が話した事だ。しっかりとした情報なのだろう。それに、朱栞自身も彼の傷を見ているし、ラファエルが帰ってくる前に大きな魔力と爆発音を聞いていた。あれを穂純が行った。朱栞は、今度こそ立っていられなくなりその場にしゃがみ込んでしまった。
放心状態の朱栞を見て、国王は何も聞き出せないと思ったのか「異世界での男の様子はわかった。きっと切れ者だったのだろう」と結論付けた。