「……もう十分です」
そう言うと、リヒトは花が用意したであろう、ペットボトルの水を手に取った。
瓶には手を付けず、ごくごくと水を飲み始める。
花の頭に手を乗せると、優しい表情で撫でた。
驚く秋季。
「未来は…変えられると、教わりました」
そう言うと、持っていた瓶を投げ返した。
「私はこれから先、彼女を守らなければなりません。その為には…全ての毒に適用しなければいけませんから」
「…っ、待て。お前は一時的に花ちゃんの用心棒として雇われているだけで…お前の本職は、」
身体を起こしたリヒトは、軽くベッドメイキングをすると、花の身体を持ち上げた。
「人を殺すと言うのは。世界一の称号を手に入れると、飽きてしまうのですよ」
ニコリと笑みを浮かべるリヒトに、秋季は身震いをした。
冷たい殺気に思わず反応してしまったのだ。
花を起こさないよう、ゆっくりとベッドに寝かせた。
「………感謝しています」
リヒトは振り返る事無く呟いた。
驚き、目を見開く秋季。
「今までは貴方を…父を恨んできましたが見方が変わりました」
「……いや、私がもっと早く迎えに行っていれば、そんな辛い事をせずに済んだはず、」
「──────いいえ」
ゆっくり振り返る。
「臓器を売られず、私自身が売られた事で…、
”最強の殺し屋”としての人生を得る事が出来た。
そして…、
彼女に出会い、傍にいられる事が出来たのですから」
花の頬を撫でながら、笑みを浮かべた。
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