「──────本当馬鹿な女です。

自分が有利になる為に酒井秋季を自分の物にして。
けれどそれは全く無意味なもので…。


好きでもない男との子供を産んで。


……その割に、千夏さんと関わるなと酒井秋季には制限させ。自分は浮気三昧。


最後には私をそんな母親の元に置いて、酒井…いえ、父は一人で逃げたんです。


…そのせいで母は次第に病んでいき、
千夏さんといる父を見ては嫉妬に狂い。


私に…どれだけ父は最低か。
千夏さんが…浮気相手だ。


そんな事を毎日言い聞かせられました。



……結局、私に多額の借金を残し、母は勝手に自殺して。

売られる事になりました。
…表には出れない、仕事をこなす所に、」




そう言って、私の方を向いた。




「………知っていました。本当は…千夏さんがそんな人ではないと…」




伸びて来た手が私の頬を包んで撫でた。
手袋越しの優しい手がまるで別人のよう。



「好かれるためでも何でもなく…誰にでも隔てなく、ただ優しくて、素敵な人だと…知っていたのに…、」



リヒトさん…?




「……酷いことを言ってすみませんでした…」




──────とても悲しそうだった。

それは私に対しての物なのか、それともママに対してのなのか…私には分からなかった。