「大丈夫?」


咄嗟に支えてくれたたくましい二の腕。


「大丈夫だよ……」


なにをしてもうまくなかない自分に、顔を上げることすらできなくなる。


「今日はウナギでも取ろうか。ちょうと食べたかったところなんだ」


大河はそう言うとカバンからスマホを取り出して出前に電話をかけはじめた。


美緒はそんな大河をぼんやりと見つめる。


大河は優しいまなざしをこちらへ向けているが、内心は呆れているかもしれない。


毎日難なくこなしていたことがどうしてできないのかと怒っているかもしれない。


こんなんじゃ本当に追い出されてしまう。


追い出されたら私、どうすれば……。


そこまで考えたけれど、ハタと気が付いた。


追い出されるのは陽菜であって、美緒ではない。


追い出されたとしても美緒の本来のアパートへ戻ればいいだけだ。


アパートには陽菜がいるからちょっと気まずいけれど、それなら追い出してしまえばいい。


今自分がここから追い出されるということは、陽菜と大河が別れるということじゃない?


瞬時にそんな考えが浮かんできていた。


「陽菜? またぼーっとして、どうした?」


「ううん。なんでもない」


美緒は左右に首を振り、内心ではほくそ笑んでいたのだった。