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湯飲みを集めて給湯室へ行くと2人の女性社員がすでに洗いものを始めてくれていた。


それが去年入社した2人だとわかると、美緒は後ろから声をかけた。


「これもお願いできる?」


「あ、折本先輩。いいですよ、置いといてください」


ショートカットの快活そうな子に言われ、美緒は湯飲みをシンクの横に置いた。


「折本先輩も柊さんのファンですよね?」


ポニーテールの子に突如そう聞かれて、思わず噴き出してしまった。


「な、なによ突然」


どきまぎしながら聞くと2人の女子社員は顔を見合わせて「私たち、柊さんのファンクラブの会員なんですよー」と、声を合わせて言った。


その明るい声に瞬きをする。


「ファンクラブ?」


思わず聞き返すと今度は2人が同時に目を見開いて美緒へ視線を向けた。


「折本さん知らないんですか? 柊ファンの女子社員が集まって作ったんですよ?」


ショートカットの子が首をかしげて言いつつ、制服の胸ポケットから一枚のカードを取り出した。


それは色紙をラミネートされたもので、《柊ファンクブ 会員番号012》と書かれている。


美緒はそれをマジマジと見つめて、それから呆れたため息を吐き出した。


「こんなのがあったなんて知らなかった」


「折本さんも入ればいいじゃないですか。ファンクラブに入っていれば柊さんの情報がメッセージで入ってくるんですよ」


今度はポニーテールの子が言う。


美緒は腕組みをして2人を見つめた。


もう会議は終わっているから、家に戻って仕事をするだけだ。


ここで文句を言うつもりはない。


だけど、こういうことが悪化していくのは見過ごせない。