「あの、その忘れ物って誰のですか? 私が届けますよ?」


「あ、いえ。これは自分で届けますから」


美緒が紙袋に手を伸ばした瞬間、スッと横へよけられてしまった。


でも一瞬見えた紙袋の中。


そこにはブルーの包みにくるまれた四角い箱が見えたのだ。


間違いなくお弁当だ。


美緒は知らない内に下唇をかみ締めていた。


昨日聞いた噂では彼女の嫌な部分が見えてきたと言っていた。


あれが本当なら、この女性は大河の気持ちをなにも考えずにお弁当なんて持ってきたことになる。


きっと大河は迷惑しているだろう。


噂が本物である確信なんてないのに、美緒はそう考えた。


「もしかして、柊さんですか?」


聞くと、女性は驚いたように目を見開いた。


「そうです。よくわかりましたね」


そう答える声に少し警戒心が含まれているのがわかった。


「ごめんなさい、さっき受け付けで聞こえてしまったんです」


言うと、女性は納得したように微笑み、警戒心を解いた。


「そうだったんですね」


ニコニコと笑う明るさは美緒にはないものに思えて、胸の奥が悪い気分になってくる。


「柊さんは私の上司なんです。今日も会いますし」


美緒はそう言うと紙袋に手を伸ばし、強引につかんだ。


急に紙袋を引っ張られた女性は驚き、体のバランスを崩す。