「なあ、澪央。いま幸せ?」


佐久にいが、わかったように口にする。

わかってるなら聞かないでほしい。
止まった涙がもう一度溢れそうで、唇をきゅっと噛みしめる。




「…幸せなんかじゃ、ない」



同じような毎日。


わたしはシキがほかの女の子と何をしていたって何にも言うことができずにただ眺めているだけ。

わたしと適当に遊びたいと思っている人たちと、一定の距離を保ったデートを繰り返す日々。

シキじゃない誰かに縋っていても、その行為が相手を疵付けていることもわかっている。

たった一人の親友にさえ、思っていることひとつも伝えられない。




「…けど、」



わたしは、幸せになることがすべてじゃないことを知っている。
ほんの少しの幸せを、ふたりで共有したかっただけだった。


それは、うまくいかなかった、

わたしたちは幸せをはき違えていた。



「わたしは、いま、幸せだって思わなきゃいけないの、」




だって、これを望んだのはわたしだ。
それでもいいと、何度も手放したその手のひらを、シキを、追いかけてもう一度つなぎとめていたいと思っていたのは、わたしだ。