佐久にいはずっと、本当は気づいていたんだと思う。


わたしの好意に、シキの好意に。
何にも言わずにわたしにやさしくしていたのなら、とても狡い人だと今なら思う。

けれど佐久にいにも譲れない想いがあったんだから、やっぱり恋なんて難しいものを、知りたくなかった。



「わたしはシキを好きだけど、シキはまだ、」

「…真緒のことが好き?」


わたしはこくんと首を縦に振る。
それからうつむいたまんまもらったティッシュでぬれた頬と目元を拭った。


佐久にいは、シキみたいに慰めるように抱きしめたりはしてくれなかった。

やっぱり私は、シキが好きだと思った。



「ほんとうに、そう思う?」

「…おもう、」

「…澪央は、司輝のことを、俺より理解してないよ」

「……、そんなこと、」

「でもシキも、澪央のことをちっともわかってない」




わたしたちはお互いのことをどれだけ知っているんだろう。


わたしは、シキのことなんてわからない。

恋人になる前は、シキが何をしたいかも何を食べたいかも手に取るようにわかっていたはずなのに、どんどんわからなくなってしまった。


わたしが知っているシキは、お姉ちゃんのことが好きで、わたしひとりを大切にしないためにたくさんの女の子と遊んでいることだけだ。

わたしファーストにしたら、またあの日みたいに、わたしが傷つけられるのをずっと恐れている。



でもわたしは、それでもいいから、
ずっとシキと一緒にいたいとおもっていた。