開け放した窓から突風が吹き、イリーナの怒りに呼応するように部屋を荒らしていった。机に置かれていた資料は舞い上がり床に散らばる。ここに綴られた成果も全てファルマンによって与えられたものだろうか。

「そんなこと、誰にもわからない……」

 わからないけれど……。

「アレン様は、こんな私のことをたくさん褒めてくれた。誰よりも喜んで、一緒に分かち合って、傍にいてくれた」

 アレンだってイリーナにとっては大切な人に当てはまる。
 それにライラを放ってはおけない。ファルマンが何を言ってライラを誑かしたかは知らないが、このままでは彼女が心を失くす恐れがある。そんなことは許さない。

(主人公がファルマンなんかにいいように使われてるんじゃないわよ! ちゃんとファルマンルートやったんでしょうね!?)

 すべての攻略対象をクリアしてから開くルートで難易度は高い。そもそも五人を攻略するまで誰が隠しキャラなのかも教えてもらえない。プレイヤーたちはネタバレしたい衝動を一心に堪えていた。

(せっかく幼女になったのに……)

 湧きあがる熱い感情がイリーナを突き動かす。ファルマンに感じていたはずの怯えも、学園に向かうことの恐怖も、それらは次第に怒りへと転じていた。
 楽園に土足で踏み込んで、好き勝手に引っ掻きまわして平穏を奪おうとする。家にいれば安全だと思っていたけれど、もう侯爵邸は安全とは言えない。その気になればファルマンはどこにだって現れる。何度だって――。

「私だって怒るんだから!」

 イリーナの我慢は限界だった。