「それで? 愛し子ちゃんはどうするつもり? 特に情のない候補君は放っておく?」

 二択を迫るファルマンはにこにこと瞳を輝かせている。これではどちらが子どもかわからない。

「そうやって私を学園に行かせようとするんですね。自分を楽しませるために」

「さすが愛し子ちゃんは賢いね」

「ふざけないでください。私は貴方の計画には乗りません」

「そっかぁ、見捨てるんだー。ま、俺は別にどっちでもいいけどね」

「あ、ちょっと!」

 本当にファルマンにとってはどちらでもいいことらしく、散々侯爵邸をひっかきまわしておきながら、用が済むなりあっさり姿を消してしまう。本当に気まぐれだ。

「何よ……帰るならみんなを起こして行きなさいよ!」

 部屋の外にはタバサやメイドたちが倒れたままで、侯爵邸は未だ精霊の眠りに包まれている。しかしイリーナが愛し子であるのなら、ファルマンの魔法を破ることは可能だろう。

(そのためには元の姿に戻らないと!)

 元に戻れば悪役令嬢にされてしまう。そんな考えは少しも浮かばなかった。イリーナの頭にあるのは屋敷の人たちを救う事だけだ。
 イリーナは部屋に戻ると机の引き出しから元に戻る薬を取り出す。一見ただのキャンディのように見えるそれは調合された薬だ。

(これを舐めれば元に戻れる。でもこれは……これも、幼女化に成功したのはファルマンの愛し子だったから?)

 長年の成果を前にすると、ファルマンの言葉がよみがえる。
 その答えは誰にもわからない。たとえファルマンでもだ。愛し子でなくても作れたかもしれない。あるいは愛し子でなければ作れなかったかもしれない。終わってしまってから答えが出せるものではない。

(みんなが喜んでくれた。褒められて嬉しかった。でもそれは大嫌いな人から与えられた力かもしれない。なら私は、最初からファルマンの掌の上?)

 こんなに悔しいことはない。

「悔しい……悔しい!!」

 握りつぶしたキャンディが音を立てる。