「君の色は――あの日見たイリーナ・バートリスと同じだ。それにしても面白いね。もしかして君、若返りの薬でも作っちゃった?」
イリーナはじりじりとファルマンから距離を稼いた。
(どうする? 人を呼ぶ? それとも話を聞くべき!?)
黒幕が自ら現れたのなら、それなりの理由があるはずだ。
「返事がないけど俺、正解引いたよね? 人類にはあと百年くらい不可能だと思ってたけど、凄い凄い!」
「なんなんですか、勝手に人の家に、部屋に入ってきて! 人を呼びますよ」
「ご自由に? どうせ誰も来れないと思うけど」
ファルマンの発言に全身から血の気が引いていく。彼が器用に指先でバランスを取るトレーも、皿に乗せられたマカロンも、運んでくるのはタバサだったはずだ。
「何……? 何をしたの?」
怖ろしい想像に声が震えた。
「せっかくの時間を邪魔されたくないだろ? 屋敷の人間には寝てもらったよ」
ファルマンは悪びれることなく自身の仕業であることを明かした。
「何が目的ですか」
「その顔で睨まれてもっ、可愛いね」
笑いを堪えるファルマンを一層きつく睨みつける。可愛いと言われたイリーナからは幼女の仮面が剥がれていた。
イリーナにとってこの屋敷の人達は大切な存在だ。それを勝手に魔法で眠らされて、黙ってはいられない。それにもう、いくらイリーナが弁解したところでファルマンは確信している。あけすけな物言いに砕けた口調。それこそがファルマンの本性で、本音で話そうと言う合図だった。
無言で睨み付けるイリーナに、話が進まないと折れたのはファルマンだ。
「退屈でさ、会いに来ちゃった。オニキスに侯爵も、君は体調が悪いの一点張り。どうしたのかなーって思ってたんだけど、こないだ街で元気な姿を見かけたからさ。これでも寂しかったんだよ? 君は寂しくなかった!? 俺の愛し子ちゃん」
「誰が――、なんて?」
そう呼ばれるのは主人公のはずなのに。どうして自分に向けて愛し子などと言うのだろう。
「あ! もしかして愛し子ちゃんて呼び名、気に入ってくれた? 嬉しいな」
「嬉しくない! わ、私、私が愛し子って、あり得ない!」
精霊に選ばれた特別な人間。選ばれる人間は百年に一人いるかどうかの確率で、希少な存在と言われている。加護の恩恵により魔力は増え、彼らの声を聞くことが出来るとか。
しかしそれと同時に選ばれた人間はその精霊の所有物となる。精霊によってその意味合いは変わってくるが、ファルマンが人の子に加護を与えるのは自分を楽しませろという期待からだ。
イリーナはじりじりとファルマンから距離を稼いた。
(どうする? 人を呼ぶ? それとも話を聞くべき!?)
黒幕が自ら現れたのなら、それなりの理由があるはずだ。
「返事がないけど俺、正解引いたよね? 人類にはあと百年くらい不可能だと思ってたけど、凄い凄い!」
「なんなんですか、勝手に人の家に、部屋に入ってきて! 人を呼びますよ」
「ご自由に? どうせ誰も来れないと思うけど」
ファルマンの発言に全身から血の気が引いていく。彼が器用に指先でバランスを取るトレーも、皿に乗せられたマカロンも、運んでくるのはタバサだったはずだ。
「何……? 何をしたの?」
怖ろしい想像に声が震えた。
「せっかくの時間を邪魔されたくないだろ? 屋敷の人間には寝てもらったよ」
ファルマンは悪びれることなく自身の仕業であることを明かした。
「何が目的ですか」
「その顔で睨まれてもっ、可愛いね」
笑いを堪えるファルマンを一層きつく睨みつける。可愛いと言われたイリーナからは幼女の仮面が剥がれていた。
イリーナにとってこの屋敷の人達は大切な存在だ。それを勝手に魔法で眠らされて、黙ってはいられない。それにもう、いくらイリーナが弁解したところでファルマンは確信している。あけすけな物言いに砕けた口調。それこそがファルマンの本性で、本音で話そうと言う合図だった。
無言で睨み付けるイリーナに、話が進まないと折れたのはファルマンだ。
「退屈でさ、会いに来ちゃった。オニキスに侯爵も、君は体調が悪いの一点張り。どうしたのかなーって思ってたんだけど、こないだ街で元気な姿を見かけたからさ。これでも寂しかったんだよ? 君は寂しくなかった!? 俺の愛し子ちゃん」
「誰が――、なんて?」
そう呼ばれるのは主人公のはずなのに。どうして自分に向けて愛し子などと言うのだろう。
「あ! もしかして愛し子ちゃんて呼び名、気に入ってくれた? 嬉しいな」
「嬉しくない! わ、私、私が愛し子って、あり得ない!」
精霊に選ばれた特別な人間。選ばれる人間は百年に一人いるかどうかの確率で、希少な存在と言われている。加護の恩恵により魔力は増え、彼らの声を聞くことが出来るとか。
しかしそれと同時に選ばれた人間はその精霊の所有物となる。精霊によってその意味合いは変わってくるが、ファルマンが人の子に加護を与えるのは自分を楽しませろという期待からだ。