翌日にはオニキスから話を聞いたアレンが会いに来てくれた。それも授業が終わるなり急いで来てくれたらしい。

「イリーナ、君が俺に会いたがっていると聞いたが!」

「そうなんです。私、アレン様に訊きたいことがあって」

「なんでも答えよう」

「アレン様、学園で誰かに私のことを訊かれましたか?」

 同じ質問をアレンにもすると、なんだか拍子抜けしていた。アレンにとってはわけのわからない質問でも、イリーナにとっては重要なことだ。

「学園か……。君も一緒に通えたら楽しかっただろうね。確かに新入生から君のことを教えてほしいと言われたよ」

「もしかしてライラですか?」

「知り合いだったのか?」

「いいえまったく! ただ、兄様もその子に私のことを訊かれたというので」

「オニキスも? なら侯爵家繋がりか……? いや、彼女は貴族ではなかったと思うが」

「アレン様は何を言われましたか?」

「君はどうして入学しないのか。何か知っているのか、どう思っているかってね。質問攻めだったよ」

 アレンの顔には大変だったと書いてある。

「それで、アレン様はなんて答えたんですか!?」

「事情があって入学出来ないようだが婚約者のイリーナとは良好な関係を築いている。イリーナはとても素晴らしい女性だと答えておいた」

「まだ候補です!」

「はいはいそうだったね。まあそのライラという子も不満そうだったけど」

 当然だ。悪役令嬢を褒める攻略対象なんて普通はいない。

「俺は騙されていると言っていたかな。だが君はこんなにも愛らしい。時間がある時は可能な限りともにいるようにしているし、先日は二人きりで買い物にも出かけた。とても良好な関係だ。少しも嘘偽りはないが、疑われるとは心外だ」

 自分が主人公の立場であれば信じろと言われても難しい発言だ。イリーナがアレンに何かしているとしか思えない。本人が聞いても信じられないのだから。

(私が何かしたって思われてそう……)

 それをライラは罪として裁きたいのだろうか。だとしてもどうやって?

「……アレン様。上手くは言えないのですが、気を付けて下さいね。たとえ学園でも、危険はありますから」

 真剣なイリーナの様子にアレンも態度を改める。

「それは先日の校長との件に関わりがあるのか?」

「それは……」

 アレンはイリーナを刺激しないよう、これまでその話題に触れることはなかった。思い出したくないというイリーナの気持ちを汲んでくれたのだろう。

「私にもわからないんです。ただ、心配で……」

 ライラがイリーナ以外に危害を加えるとは思えないが、忠告だけは伝えておきたい。引きこもっている自分に出来る事は少ないけれど、心配することくらいは許されるはずだ。

「忠告感謝する。だがそれは君にも言えることだ。侯爵邸とはいえ、気をつけてくれ」

 イリーナは不審者の情報を得ていたアレンによって逆に諭されていた。

(ライラ、何を考えているの?)

 いずれにしろ、侯爵邸からは出ない方がいいだろう。