「兄様、今日はアレン様は来ないですか?」

 兄を問い詰めているのなら、婚約者候補であるアレンにも接触しているはずだ。

「アレンなら今日は来ないぞ。さすがに当番を任されまくっていたリオットがキレてな。今日ばかりは逃がさないと包囲網を張っていた」

 予定さえなければアレンは授業が終わると毎日のように侯爵邸に足を運んでいる。リオットにとっては張り合う相手が不在で苛立ちは増しているはずだ。ゲームでの二人を知っているだけに憤るリオットが目に浮かぶ。

「必要なら今から呼ぶが? お前が会いたがっていると言えばすぐにでも駆けつけるだろう」

「そんなに急がなくていいですよ!? 明日、アレン様に会えたら伝えてもらえますか?」

「わかった。……なあ、イリーナ。まさか、お前もアレンのことを……?」

「兄様?」

「いや! いい。聞きたくない!」

 この話題は止めようとオニキスは自ら会話を切り上げた。

「そうだイリーナ! 俺も魔法薬の授業を専攻したんだ!」

 聞いてくれとオニキスはイリーナに詰め寄った。
 確かアレンからも授業を選択したと聞いている。

「アレンに負けてはいられないからな。俺だけではなく、アレンに誘発されてリオットまで取り始めた。学園ではちょっとした人気の授業になっているぞ」

「それはいいことですね」

 これはゲームとは違った変化なのかもしれない。こう言ってはなんだが魔法薬は学園の中でも人気がないものとして扱われている。きちんと学べば役に立つ授業だが、専門的な知識が多く、将来仕事にするような人しか履修することがない。だがアレンやオニキスが学ぶことで注目を集めているのなら良い変化と言える。

「お前ほど博識になるにはまだ時間がかかりそうだ。アレンはよくお前のことを褒めているが、実際に自分が学んでみると痛感する」

「アレン様が私をですか?」

「このところ空いた時間はお前の研究成果に目を通しているし、俺にまでお前の自慢をしてくるぞ。イリーナは素晴らしい魔女だってな」

「そんなことしてるんですか!?」

「兄だから知っていると言ってやったが、俺の知らない話までぺらぺらと……これではどちらが兄かわからないな。悔しいが、あいつは俺の知らないお前を知っていた」

 それはきっと、オニキスが留守の間に培った時間だ。