しかしイリーナは古物バザーの会場に着くな不安を忘れて目を輝かせる。この世界は魔法のある世界。侯爵邸ではあまり意識することはないが、外に出れば町は不思議にあふれていた。
 ひらひらとどこからともなく現れた蝶がイリーナの周囲を飛び回る。けれど髪飾りのように止まると煙のように姿を消してしまう。
 小鳥を形どる雲は空のキャンパスに漂い、子どもたちの注目を集めている。猫の鳴き声に耳を傾けると人形が店番を手伝っていた。
 店主たちはそうして客の注目を集めている。イリーナもその一人となって演出の虜になっていた。バザーは物を売り買いするだけでなく、人々を楽しませるものでもあるらしい。
 そんなファンタジーな町並みを舞台に様々な店が顔を揃えている。年代物の骨董品を扱う店や、異国の香りを漂わせる店。時代を感じさせるアンティークに、イリーナが目当てとしている魔法書の店もある。

「凄い……!」

 外の世界にある魅力をイリーナは今日まで忘れていた。怖いとばかり思っていた外には魔法の輝きがあふれている。
 そんなイリーナの表情を見てアレンは満足そうに微笑んだ。

「お気に召したかな?」

「とても!」

 そう言って離れそうになるイリーナの手を再度アレンが捕まえる。

「待て。抱き上げよう」

「はい!?」

 幼女化しても元は十七歳だ。普通に恥じらいは持ち合わせている。

「その身体では台の上まで見えないだろう? 人混みを避けるのにも苦労する。転んで怪我をしてもいけない」

 アレンの言うことは間違っていない。

(間違ってはいないけど!)

 本当に本当に、知り合いに見つかりませんようにとイリーナは心の底から祈った。