アレンは緊張するイリーナの小さな手を握る。

「アレン様?」

「俺はこの家の大切なお姫様を任されている」

 だから手を繋ぐことを譲るつもりはないと言うのか。

「少し町まで行くだけですよ?」

「それでも君に何かあれば黙っていない人が大勢いる。バートリス侯爵に夫人、オニキス、それからタバサに、この家の人間全てが君の身を案じている。今日だって、外に出ると言ったらみな喜んでいただろう?」

「はい……」

 娘の自発的な外出希望に両親は手放しで喜んでくれた。アレンが一緒なら心配はないと送り出し、楽しんでくるようにと言われている。タバサはこの場にはいないが、きっと彼女もイリーナの変化を喜んだだろう。

「同行したいと申し出たバートリス侯爵には頼み込んで君と二人での外出許可を頂いた。信頼して君を任せてくれた侯爵のためにも、俺は君を無事家まで送り届ける義務がある。俺の身の安全のためにも万全を期して護衛にあたらせてくれないか?」

 アレンは外の世界に怖気付いたイリーナを元気付けようとしていた。今度こそ、イリーナは握られた手に力を込めてゆっくりと歩き出す。一人でないとわかれば一歩も踏み出しやすかった。

「俺たちは周囲からどう見えているだろうね」

「兄妹だと思います」

 少なくとも友人や恋人には見えない。だからこれはデートではないと、イリーナは繰り返しこの場にはいない主人公に向け念じていた。