両親に許可を取り、外に出るための支度を手伝ってもらう。母は自信満々にドレスを選び、父はお小遣いをくれた。タバサは留守にしているが、アレンと外出すると言えばみんなが張り切って支度を手伝ってくれた。

「その格好も可愛いね」

 先に待っていたアレンはイリーナに気付くなり褒めてくれる。母やメイドたちから褒められるのとはまた違った気分だ。

「イリーナ」

 見るとアレンが手を差し伸べている。手を繋ごうという意図に気づくのに時間はかからなかった。

「平気です。私、子どもじゃありません」

「その格好で言われても説得力はないが」

「くっ!」

 誰がどう見ても子どもの姿だとまたも思い知らされた。

「迷子になってはいけない」

「なりませんよ!?」

 どこまで子どもだと思われているのだろう。

「本当に?」

「本当です!」

 イリーナは胸を張って屋敷の外へ飛び出した。いっそアレンを置き去りにしてやる勢いで門までたどり着くが、そこでぴたりと立ち止まる。

「イリーナ?」

 追いついたアレンは動こうとしないイリーナを不審がった。

(そういえば私、お屋敷の外に出るの引きこもってから初めてだ……)

 この世界のイリーナの記憶は六歳で止まっている。その止まった記憶も馬車の中から眺めたものばかりで、侯爵邸から一歩外へ出れば知らない場所にいるようだった。
 アレンには啖呵を切ってしまったが、彼とはぐれて本当に一人で家まで帰れるだろうか。改めて引きこもっていた時間の長さを感じた。