「そうですわ! 聞いてくださる!?」
促した途端、娘は勢いよく身を乗り出す。アリギュラの強引な婚約者のことは、うまく頭から追い出せたようだ。
紫色の瞳を爛々と輝かせて、娘はぷりぷりと続ける。
「私の婚約者様ったら、ひどいんですのよ!? 私という相手がいながら、最近、別の女性にうつつを抜かしていらっしゃるんです!!」
「んなっ!?」
アリギュラは絶句した。せいぜい悩みの種は痴話げんかか何かだろうと高をくくっていたが、娘はとんでもない悩みを抱えているようだ。憤慨して、アリギュラは声を上げた。
「なんて下劣な! 男の風上にも置けない男だな!!」
「そうですわよね!? 男たるもの、一度誓いを立てたならば、その相手を愛しぬくべきですわ!」
「ああ、まったくだ! なんて輩だ!」
普段のアリギュラなら、ここまで娘に入れ込むことはなかっただろう。けれども、いまや娘はアリギュラの同志。アリギュラの話に親身に耳を傾け、一緒に怒ってくれた、善良なる仲間である。だからこそアリギュラは、ぷんすかと怒ったのだ。
そんなアリギュラに、娘は悩ましくため息を吐いた。