「許せませんっ、許せませんわ、その殿方は! 恥じらう乙女の純潔を奪っておいて、それが『役目』などと評すなど言語道断!! 乙女のキスは、どんなお役目よりも尊いものでるはずですわ!!」
「っ! そ、そうであるよな!?」
思わぬ援護に、アリギュラは身を乗り出した。
「口付けはもっと、尊ぶべきものであろう? そ、その、好いたもの同士、手順を踏んで、想いを通わせて、大切に大切に交わすものであろう? それなのに奴ときたら、作業的にちゅっちゅ、ちゅっちゅと。わらわは初心者ぞ!? ファーストキスもまだだったのだぞ!? もう少し、手心を加えてくれても良いと思わぬか?」
「ええ、もちろんですわ! 口付けにせよ、その先にせよ、愛は互いの同意をもってして育むもの。それを無理やりになどと、とんだケダモノですわ!」
きらんと目を光らせ、娘は拳を空に突き出した。
「ケダモノには鉄拳を!」
「鉄拳を!」
つられてアリギュラも拳を突き出す。それから、二人は顔を見合わせて同時に噴き出した。