すぐ近くでほぼ同時に響いた声に、アリギュラはびくりと体を強張らせた。誰もいないと思っていたが、この茂みには自分のほかにも人間がいたらしい。

 アリギュラは警戒して茂みの中で構えた。けれども、驚いたのは相手も同じらしい。がさごそと、茂みが揺れる。ややあって「どなた?」と女の声が恐る恐る上がった。

「そこにいるのは、どなたですの?」

(…………教会の者ではないのか?)

 耳慣れない年若い女の声に、アリギュラはふむと考える。教会の聖職者、もといメリフェトスの手下でなければ、アリギュラが人間を恐れる理由はない。

 周囲に聖職者どもがいないことを確かめてから、アリギュラはちょこんと立ち上がる。そして、声のした生垣の葉をがさりとどけた。

「きゃっ」と悲鳴を上げた相手を見下ろし、アリギュラは問うた。

「わらわは、訳あって追われる身だ。おぬしこそ、こんなところに隠れて何をしておる?」

「追われ……え??」

 ぱちくりと瞬きをした人間の女を、アリギュラは覇王の風格を漂わせ、冷ややかに観察する。