異世界の魔王、アリギュラが、聖女として召喚されてから7日。
聖教会、ローナ聖堂の廊下を、聖職者たちがぱたぱたと駆けていた。
「聖女様―!?」
「聖女様、どちらにおられるのですかー!?」
(誰が出ていくか、たわけ!)
6日前とまったく同じことを内心毒づき、物陰に隠れるアリギュラ。アーク・ゴルドで魔族の王として君臨していたときからは、決して想像のつかない姿である。
見つからないように冷や汗を流すアリギュラをよそに、聖職者たちは大声で叫ぶ。
「聖女様、メリフェトス様が探しておいでですー!」
「今日も、聖女様のお力を頼りに多くの人々が訪れているのですー!」
「せーいーじょーさーまー!」
ぱっと耳を塞ぎ、アリギュラはとびこんだ中庭の生垣の影で縮こまる。そして、ここ数日間に起きたことを思い返し、声を押し殺して悶絶した。
(やめろ、やめろー! わらわは出ていかぬぞ、絶対に出ていかぬからな!!)