「くっ………!」

 勇者に押され、アリギュラは赤い唇を歪める。自身の力が失われていくのに反して、勇者の光はどんどん強まっている。仲間の士気が、勇気とやらが、彼の力になっているらしい。

 ――アリギュラが勇者の重い一撃を受け止めたそのとき、ひとりの魔族が、勇者と魔王がぶつかる王の間にたどり着く。酷い手傷を負ったその魔族こそ、アリギュラのいちの配下、メリフェトスだ。

「まさか、アリギュラ様……っ」

 重い体を引き摺り、なんとか主人のもとに駆けつけたメリフェトスだったが、目の前で繰り広げられている光景に我が目を疑った。

 あの美しき我が君が――前魔族の上に君臨する、絶対的魔王であるアリギュラが、人族に圧されている。彼女の溢れるほどの魔力はいまや弱まり、聖剣を撃ち返すのがやっとだ。

 と、その時、一際重い一撃を勇者が放った。ガキンと嫌な音が高い天上に響く。

 スローモーションのように、メリフェトスにはすべてがはっきり見えた。

 一撃を耐えきれずに根元から折れるディルファングと、信じられないとばかりに切れ長の目を見開くアリギュラの姿が。