「早く逃げないと。連中の狙いは君だ。ここで君を失うわけには……」
「魔王サタンを倒すのが、『まほキス』のヒロインの役割。そうじゃな? メリフェトス!」
「左様にこざいます。左様にございますが、我が君……。ああ、ダメだ。これはもう、聞いていらっしゃらない時の目だ」
言葉を呑み込み、メリフェトスが眉間を押さえて首を振る。事実、アリギュラは聞いていなかった。これっぽっちも聞いていなかった。
「み、見ろ! 聖女様が浮いていらっしゃる!」
「浮かんでる!?」
「聖女様が!?」
途端に騒がしくなる人々。喧騒をよそに、アリギュラは真っ赤な瞳を爛々と輝かせ、徐々に飛翔の準備を整えた。