(あんのクソ女神〜〜!)
「あ、アリギュラ様?」
ぐしゃぐしゃと髪を掻きむしるアリギュラを、メリフェトスが戸惑ったように眺める。けれども取り繕う余裕もなく、アリギュラは深く長く溜息を吐き出した。
本当のほんとに、あの女神は最後に、なんてとんでもない爆弾を落としてくれたものだ。
「アリギュラ様、一体どうされたのですか?」
さすがにおかしいと思ったのだろう。いよいよ本格的に、メリフェトスが屈んでアリギュラを覗き込む。
そのまま彼は、驚いたように目を瞠った。
――ふわりと、潮の匂いを運んで、海からの風が二人の間に流れる。海原を照らすオレンジの光を頬に受け、アリギュラは、少女は、どこか悔しそうに自分を見上げている。
風に靡く髪の色は、夜空と同じ、艶やかな黒色。ルビーのような赤い瞳に浮かぶのは、ほんの少しの恥じらいと、強い意志。
ほんの少し紅がさしているように見える頬は、斜陽による錯覚ではない。事実、彼女の胸は、先ほどからトクトクと微かに早い鼓動を刻んでいた。
(まさか……っ)
きゅっと唇を噛み、アリギュラは僅かに眉を顰める。内心呻きながら、アリギュラは悔し紛れにメリフェトスを睨む。
(まさかわらわが、こやつを好いておるなどと……っ)