「え? お、おぬし、あれ?」
「はーいっ! 私、クレイトスちゃんでーす! 女神やってまーす!」
ひらりと手をあげて、娘は元気よく答える。はずみで、ゆるやかに編まれた三つ編みが肩の上で跳ねた。
――なんというか、色々と予想外である。小さな顔には少々不釣り合いなメガネも、およそ神秘さに欠けるダボついた服も。そのくせ、やたらプロポーションが抜群なのが腹が立つ。
毒気を抜かれたアリギュラがぼんやりと眺めていると、クレイトスはやおら白いハンカチを取り出し、さめざめと泣き始めた。
「私、感動しましたぁ……! 主従萌えって、正直これまであんまりピンとこなかったんですけどぉ。はっきりいって、最of高でした! 新しい扉、開いちゃいました〜っ」
「え……? すまぬ、意味がいまいち……」
「アリギュラちゃんが異世界の魔王様って知ったときは、ほんとどうしよっかなーって思ったんですけどぉ。振り返ってみればこれしかありえなかったっていうかぁ、メリフェトスさまの忠臣ラブが尊すぎっていうかぁ〜!」
メリフェトス。言っていることの半分も意味がわからなかったが、その名が出た途端、アリギュラは赤い瞳をカッと見開いた。