メリフェトスは息を吹き返した。

 二人を包んでいた光が収まり、アリギュラがそっと唇を離したそのとき。目を閉じたときと同じく、静かに瞼を開いたのである。

 そんな彼がなぜ、キャロラインたちから「死にネタ」でいじられているのか。それは彼が、魔王に襲われたショックで『非常に限定的(かつ都合のいい)記憶喪失』ということになっているためである。

 アリギュラと共に戻ってきたメリフェトスは、当然ひどく歓迎を受けた。問題が生じたのは、対アリギュラの家庭教師に、彼も任命されかかったときである。

〝メリフェトス様は宗教関係をお願いできればと思いますの。聖教会の一級神官様ですものね! とっても心強いですわ!〟

 にこやかにキャロラインに告げられて、メリフェトスは顔を引きつらせた。

 彼は魔王軍でも一番の才覚を誇った、知将である。当然、聖教会に潜入するにあたって、並々ならぬ努力であらかたの知識は詰め込み、ボロが出ないように武装した。しかし、人に教えるとなると話は別である。

 加えてキャロラインは聖教会のことのみならず、精霊やら神話やら魔獣の成り立ちやら、土着の細々とした信仰についてもアリギュラにレクチャーして欲しいとメリフェトスに依頼した。ここまでくると、さすがの彼もお手上げである。