――魔王サタン、もといサタンと融合していたカイバーンを打ち破ったあと。
エルノア国は無事、真の平和を取り戻していた。
人々は泣いて喜び、宴は三日三晩続いた。彼らはこぞってアリギュラを称賛し、賛美したが、アリギュラの心には大して響かなかった。それよりも重要なのは、聖女の役目を果たし終えた彼女は、いまや自由の身であるということである!
どんちゃん騒ぎも終わったころ、アリギュラはジークをはじめとする攻略対象者たちに「旅に出たい」と告げた。せっかく異界にきたのだ。この世界のことをもっと、いろいろ見て回りたいのだと。
彼らは驚き、悲しんだ。けれども、永遠の別れではないこと、一通り見て回ったら必ずエルノア国に戻ってくることを約束したら、最後は渋々頷いた。
そうして、せめて長旅に出れるくらいにはこの世界のことを学んでくれと、攻略対象者たちが順にアリギュラの講師となって、教鞭を振るうことになったのである。
「ジークの授業は、退屈なのじゃ」
ふわぁと大きな欠伸をして、アリギュラは顔をしかめる。
ジークの担当は、この世界の地理だ。ちなみに第二王子のルーカスは歴史、ジークの侍従のルリアンは通貨や宗教といった一般教養担当。俄然やる気が出るのは近衛騎士アランと王宮魔術師クリスの授業で、アランはサバイバル術、クリスは旅に役立つ魔術学だ。
ちなみにキャロラインはといえば、総合監修兼、隙あれば座学から逃げ出そうとするアリギュラのお目付け役である。
唇を突き出して羽ペンをのっけて遊ぶアリギュラに、キャロラインは盛大に溜息をついた。
「いけませんわ、アリギュラ様。たしかにジーク様の授業は全体的に平坦で、いささか摑みどころにかけるところがありますが……」
「聞こえているよ、キャシー? あと、地理の授業に盛り上がりを求めるのが間違ってないかな?」
「……とにかく! 今日のノルマを達成しないと、ケーキはお預けですわよ!」