――の、だが。

「…………許さぬ」

 ぽつりと、声が零れ落ちる。次の瞬間、アリギュラはガッと、メリフェトスの胸倉を両手で掴んでいた。

 カイバーンとの最終決戦で、無我夢中で飛び込んできたメリフェトスの姿が、まるで昨日のことのように思い出される。

 それだけじゃない。

 初めて会った日の情けない姿も。手下になれと告げたときの呆けた顔も。

 魔王城を建てたときの誇らしげな顔も。四天王たちと飲み騒いで潰れた姿も。

 あれも、これも。どれも、それも。かけがえのない思い出たちが、走馬灯のように駆けていく。

 ぎりりと歯を食いしばる。そうやって、溢れる涙を呑みこんだ。

 泣き言をこぼす代わりに、アリギュラは燃える瞳で彼を射抜いた。

「……勝手に飛び込んできて、勝手についてきて。勝手に口付けを奪っておいて、勝手に満足して。あげくわらわを残し、勝手にひとりで逝くつもりだと?」

 はっと乾いた笑いを吐き出す。そうやって、彼女は勢いよく叫んだ。

「許さぬ! 誰が許しても、わらわは許さぬぞ、こんな結末は!」

 ぐいと身を乗り出す。そうしてアリギュラは、覆いかぶさるようにしてメリフェトスを見下ろした。